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大分地方裁判所 昭和54年(ワ)453号 判決 1985年3月25日

原告 国

代理人 辻井治 古門由久 宮本吉則 森武信義 ほか二名

被告 亡徳丸生路訴訟承継人 徳丸安枝

主文

一  被告は原告に対し金四〇〇〇万円及びこれに対する昭和五一年二月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文一、二項と同旨の判決及び仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、訴外株式会社農業建設事業団(以下「事業団」という)に対し、昭和五一年二月二七日現在において、昭和四九年度法人税本税九二二万八八五五円、過少申告加算税二〇万九〇〇円、重加算税三五二万六八〇〇円及び昭和四九年度源泉所得税本税七万五〇〇〇円、不納付加算税七五〇〇円、以上合計一三〇三万九〇五五円の租税債権並びに右法人税、源泉所得税の各本税に対する国税通則法六〇条一項所定の延滞税債権を有する。

2  事業団は、訴訟承継前の被告である亡徳丸生路(以下「亡徳丸」という)に対し、次のとおり金四〇〇〇万円の不法行為に基づく損害賠償債権を有する。すなわち、

(一) 事業団が昭和四七年六月四日ころ、その所有する大分市横尾字大丸尾四四六六番地の土地ほか四一筆の土地(以下、これらの土地を総称して「本件土地」という)を訴外嵯峨建設株式会社(以下「嵯峨建設」という)に代金合計三億七〇〇〇万円で売却するに際し、当時、右事業団の会長と称し、その運営の実権を握つていた亡徳丸は、右事業団の代表取締役亡森文男(以下「森」という)及び株式会社光輪(以下「光輪」という)の代表取締役安東正一(以下「安東」という)らと共謀のうえ、本件土地をいつたん事業団から光輪に対して代金三億三〇〇〇万円で売却したうえ、さらに右光輪から嵯峨建設に代金三億七〇〇〇万円で売却したことにし、嵯峨建設が支払つた売買代金のうち、右差額金四〇〇〇万円を領得し、もつて事業団に対して、右金員と同額の損害を与えた。

(二) 仮にそうでなくとも、被告は森と共謀のうえ、嵯峨建設から前記のとおり本件土地を代金三億七〇〇〇万円で買い受けたい旨の申込みを受けていたから、同社に売却することによつて事業団に金三億七〇〇〇万円を取得させることができたのに、いつたん光輪に金三億三〇〇〇万円で売却したうえ、更にこれを光輪から嵯峨建設に金三億七〇〇〇万円で売却されたようにし、もつて事業団に対し、右の差額金四〇〇〇万円の損害を与えた。

3  原告(熊本国税局長)は、1記載の租税債権を徴収するため、事業団が亡徳丸に対して有する2記載の損害賠償請求債権につき、昭和五一年二月二七日、国税徴収法六二条の規定に基づき差押え、亡徳丸に対し、右差押債権の履行期限を即時とする旨債権差押通知書により指定し、同通知書は、同日亡徳丸及び事業団に送達されたので、これにより、原告は、国税徴収法六七条の規定により、右損害賠償請求債権の取立権を取得した。

4  亡徳丸は、本訴提起後の昭和五八年二月一三日死亡し、その相続人は、被告及び安部尚枝外四名であるが、被告以外の相続人は、いずれも相続放棄をなした。

よつて、原告は、被告に対し、前記取立権に基づき右損害賠償金四〇〇〇万円及びこれに対する履行期の翌日である昭和五一年二月二八日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は不知。

2  同2の事実ないし主張は否認ないし争う。

3  同3の事実のうち、差押通知書が亡徳丸に送達されたことは認め、その余の事実は不知ないし争う。

4  同4の事実は認める。

三  抗弁

1  事業団の亡徳丸に対する不法行為に基づく本件損害賠償債権は、本件不法行為の日である昭和四七年六月四日から三年の経過により時効消滅したので、被告は、本訴において右消滅時効を援用する。

2  原告(別府税務署長)は、昭和四九年六月二七日ころ、事業団の昭和四七年度の法人税の算定について、亡徳丸らを質問検査した結果に基づき、事業団に対し、本件土地の売買差益金四〇〇〇万円を事業団の同年度の収入に計上すべきであるとして、その売買経費八〇〇万円を差引いた三二〇〇万円について申告脱漏を指摘し、右同額を加えた収入の修正申告を勧告し、事業団をして、これに従つた同年度の法人税の修正申告をさせておきながら、本訴において、右修正申告勧告の事実と相反する事実(請求原因2)を主張することは禁反言の法理、信義誠実の原則に反するものである。

四  抗弁に対する認否

1  本件不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点が昭和四七年六月四日であるとする点は否認する。すなわち、

(一) 法人について、民法七二四条に定める時効起算時である「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは、当該不法行為による損害賠償請求権について正当に該法人を代表し、右請求権を行使しうる者において該損害及び加害者を知つたときと解すべきところ、本件では、事業団の代表取締役森は、亡徳丸と共に共同不法行為者であるから、右森の認識をもつて右事業団のそれを決することはできない。したがつて、昭和四七年六月四日当時の事業団の代表取締役森が該損害及び加害者を知つていた時点を消滅時効の起算点とし、これを前提とする被告の主張は失当である。

(二) 本件では、事業団のその後の代表者が本件不法行為の加害者及び損害を了知した時から民法七二四条の消滅時効が進行するというべきで、その時点は、早くとも刑事々件として本件が発覚し、亡徳丸が逮捕された時である昭和五〇年一〇月三〇日であるか、もしくは同人が背任罪で起訴された同年一一月二一日のいずれかである。

2  抗弁2の主張は争う。

五  再抗弁

1  前項1に主張の事実を前提とするとき、次の事実によつて消滅時効は中断されている。

(一) 請求原因3記載の事実と同じ。

(二) 事業団は亡徳丸を債務者として、昭和五一年三月三〇日、大分地方裁判所杵築支部に対し、本件不法行為に基づく損害賠償請求権を被保全権利とする不動産仮差押命令の申請(亡徳丸所有の不動産三一筆)をし、同裁判所支部は、右同日その旨の仮差押決定(昭和五一年(ヨ)第二号)をなした。

2  仮に、民法七二四条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル」者とは、当該法人の代表者であれば足り、従つて本件では森が右を知れば足りるとして、本件損害賠償請求権につき消滅時効が形式的成立をみるとしても、本件においては、被害者(権利行使すべき者)側としてその認識主体となるべき森自身が同時に亡徳丸との共同加害者(権利行使されるべき者)という立場を兼備しているのであつて、右請求権者である事業団が、該請求権を行使しうる法的状態になかつたため、時効期間を徒過したという状況にあつたのであるから、本件において被告が消滅時効を援用することは、信義則に反し、権利の濫用である。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1(一)の事実については、請求原因に対する認否3に記載のとおりであり、同事実が時効の中断事由となるものではない。同(二)の事実は認める。

2  同2の事実は否認し、その主張は争う。

七  再々抗弁

事業団は、解散決議をしたことはなく、従つて今村正己(以下「今村」という)を清算人に選任したこともない。よつて再抗弁1(二)の不動産仮差押申請は、なんら代表資格を有さない同人が事業団の代表清算人としてなした申請であつて無効であるから右申請を前提とする本件仮差押決定もまた無効であるから、時効を中断する効力は存しない。

八  再々抗弁に対する認否

否認ないし争う。

第三証拠 <略>

理由

一  <証拠略>によれば、請求原因1の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。また、

請求原因3の事実のうち、債権差押通知書が亡徳丸に送達されたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実及び<証拠略>によれば、同3の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。更にまた、

請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

二  事業団の亡徳丸に対する損害賠償請求権(被差押債権)について

<証拠略>を総合すると次の事実が認められる。すなわち、

(一)  事業団は、昭和四二年一〇月一七日、亡徳丸らを発起人として、本店を大分県東国東郡安岐町、資本金を二五〇万円、目的を農業構造改善事業にかかる各種施設の設計監理並びに施行等として設立された株式会社である。事業団は、安岐町農業協同組合(以下「安岐町農協」という)の役員、組合員らが中心となつて設立されたもので、同組合と密接な関係を有し、当時同農協の組合長であつた亡徳丸は、事業団の設立当初から取締役に、さらに昭和四三年五月二〇日代表取締役に就任し、事業団の経営全般に強い発言権を有していたが、昭和四五年五月二〇日、安岐町々長選出馬のため右取締役を辞任し、代表取締役を退任した。その後、森が代表取締役として昭和四九年八月一三日死亡するまで事業団の経営全般を掌理していたが、右亡徳丸も依然として事業団の運営について強い影響力を有していた。

(二)  事業団は、住宅団地の造成事業をも計画し、昭和四三年三月ころから本件土地を買収し、宅地造成に着手した。本件土地の買収資金は訴外大分県共済農業組合連合会(以下「共済連」という)から借入れしてまかない、右借入金に対する利息は安岐町農協から借入れて支払つていたが、昭和四五年三月ころには共済連からの借入金額は二億円を超え、その金利の支払い資金にも窮するに至つた。そこで、事業団は本件土地を急ぎ売却して右借入金の返済にあてることとし、昭和四六年秋頃から森が中心となつて売却先を捜すようになつた。

(三)  その結果、森は、昭和四七年四月一日、光輪の代表取締役安東との間で、本件土地を三億八七五〇万円で売買する契約を締結し、同日手付金として額面二〇〇〇万円の先日付小切手を受領した。安東は、本件土地を訴外興物近海株式会社(以下「興産近海」という)へ転売しようとして、右売買契約を締結したものであるが、同月末に至り、興物近海において本件土地を購入しないことが明確になつたため、事業団との右売買契約を解約せざるをえなくなり、これに伴い先に事業団に交付ずみの前記額面二〇〇〇万円の小切手をいわゆる手付流れとしてとられかねない状態におちいつた。

(四)  光輪との右契約解約により、森は、再び本件土地の買手を捜していたところ、昭和四七年五月下旬ころ、嵯峨建設と事業団との間で本件土地を、三億七〇〇〇万円で売買する旨の合意が成立した。

(五)  ところで、亡徳丸と森は、かねてから本件土地を売却する機会を利用して、同人らの自由に使用できる金(いわゆる裏金)を捻出して、亡徳丸の訴外尾野盛に対する一〇〇〇万余円の借受金の返済資金その他同人らの個人的用途に充てようと企図していた。そこに嵯峨建設との右売買の話がまとまつたため、亡徳丸及び森は、右企図を実行に移すことにし、光輪を右売買に介在させて、一旦、事業団から光輪に三億三〇〇〇万円で売却し、更に光輪から嵯峨建設に三億七〇〇〇万円で転売したように形式を整え、光輪の転売差額四〇〇〇万円を浮かせ、これをそつくり光輪から受けとつて裏金にしようとの筋書を立てた。そうして、同人らは、光輪の代表取締役安東に対して、右計画に加担すれば前記の額面二〇〇〇万円の小切手を手付流れとしない約束で働きかけ、右四〇〇〇万円につき、光輪において税金上の処理をなしたうえ、亡徳丸らにこれを交付することを承諾させた。そうして、同年六月四日、亡徳丸、森、安東、嵯峨建設代表取締役嵯峨藤郎らが別府市内に集まり、亡徳丸らの筋書のとおり本件土地を事業団が光輪に三億三〇〇〇万円で売却した形の契約書と、光輪が嵯峨建設に三億七〇〇〇万円で売却した形の契約書が各作成された。

(六)  嵯峨建設は、右売買代金に関し、(1)、昭和四七年六月四日、本件土地売買契約の手付金として額面三七〇〇万円の小切手をもつて森に交付してこれを支払い、(2)、ついで同年七月五日、五〇〇〇万円並びに額面六〇〇〇万円及び三〇〇万円の小切手二通をいずれも森に交付して支払い、(3)、さらに、右同日、事業団の共済連に対する借入金二億二三〇〇万円のうち二億二〇〇〇万円の債務を肩がわりすることによつて本件土地代金の支払いにかえた。以上により、嵯峨建設は本件土地の売買代金三億七〇〇〇万円の決済を全部完了した。

(七)  ところで、嵯峨建設から手付金として森に交付された額面三七〇〇万円の前記小切手は、更に安東に渡され、同人により昭和四七年六月七日肥後相互銀行大分支店の光輪名義の当座預金口座に全額入金された。しかし、その後、安東は、森の指示に従い、同月九日及び一〇日の両日にわたり合計額が右入金額と同額となる光輪振出の小切手を同人に交付して支払つた。然るに、右三七〇〇万円のうち事業団に現実に入金されたのは二〇〇〇万円のみであつた。さらに、前記額面六〇〇〇万円の小切手についても前同様森から安東に渡され、安東により同年七月五日前記銀行支店の光輪名義の普通預金口座に一旦入金されたが、そのうち、翌々日森の指示により安東が引き出した三七〇〇万円のみが事業団に現実に入金されただけであつた。

以上の事実が認められ、右認定に反する<証拠略>はいずれも採用しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。なお、被告の証拠抗弁(事実第三、二4)について考えるに、国税調査官がいわゆる質問検査権に基づいて集めた資料又は、これに基づいて新たに取得された資料を刑事事件の捜査、公判手続において用いたとしても、右質問検査権の行使自体が憲法の規定する令状主義の原則を潜脱する目的をもつてなされた等、特段の事情がないかぎり、憲法違反の問題を生じる余地はないものと解すべきところ、本件において右特段の事情を認めるべき証拠はないから、被告摘示の甲各号証が憲法に違反して取得されたものであり、証拠とすることは許されないとの被告の主張は採用できない。

以上認定の事実によれば、亡徳丸は森と共謀のうえ、昭和四七年六月四日、事業団所有の本件土地を実際には嵯峨建設に対し三億七〇〇〇万円で売却しその代金も森にて受領しながら、外形上は光輪を中間に介在させてこれに対し三億三〇〇〇万円で売却した形を装つて、その差額四〇〇〇万円を浮かせてこれを事業団に現実に入金せず、事業団に同額の損害を与えたものであり、したがつて、事業団は亡徳丸に対し金四〇〇〇万円の不法行為に基づく損害賠償債権を有するものと認められる。

三  消滅時効の主張について

1  被告が前記二に認定の不法行為債権につき、右不法行為の日である昭和四七年六月四日から三年間の経過により消滅時効が完成したと主張する点について考えるに、民法七二四条は、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は被害者が損害及び加害者を知つた時から進行すると規定している。そうして被害者が法人の場合には、特段の事情がないかぎり、その代表機関が損害及び加害者を知つたときから時効期間が進行すると解すべきであるが、被害者たる法人の代表者自身が同時に加害者である不法行為者でもある場合には、その代表者が知つたときをもつてするのではなく、同人以外の法人の代表機関が存在し、かつ、その者が損害及び加害者を知つた時から消滅時効期間が進行すると解するのが同法条の趣旨に則つた解釈と考える。

これを本件についてみるに、<証拠略>によると、昭和四七年六月四日当時は森のみが事業団の代表取締役の地位にあり、同人死亡後の昭和四九年八月三〇日に今村が新たに代表取締役に就任するまで、森以外の事業団の代表権を行使しうる者はいなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はなく、右事実によれば、本件不法行為時の昭和四七年六月四日をもつて事業団の亡徳丸に対する本件不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点とする被告の主張は失当であり、早くとも、今村が事業団の代表取締役に就任した昭和四九年八月三〇日から、遅くとも亡徳丸が本件不法行為によつて刑事々件として起訴された昭和五〇年一一月二一日(<証拠略>)までの間のいずれかの時点で、今村が本件不法行為の損害及び加害者を知つた時と解すべく、従つてその時をもつて右時効の起算点というべきである。

2  そうして、再抗弁1(二)の仮差押えの事実については当事者間に争いがなく、右事実によれば、今村が仮に、事業団の代表取締役就任と同時(昭和四九年八月三〇日)に本件不法行為の損害及び加害者を知つていたとしても、右仮差押えによつて昭和五一年三月三〇日、本件不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は中断されたというべきである。

3  なお、被告は、右不動産仮差押申請がなんら事業団の代表権を有しないものによつてなされたものであるから無効である旨主張するが、仮に右不動産仮差押申請がかかる者によつてなされたとしても、仮差押決定は、取り消されるまでは有効として取扱われざるをえないのであつて、当然無効となるものではないから、右主張は失当というほかない。

以上検討した結果に照らすと、被告の消滅時効の抗弁は失当として排斥を免れない。

三  抗弁2(信義則違反等)について検討する。

被告は、国が一方で事業団に対し四〇〇〇万円が入金されたことを前提にして法人税の修正申告をさせておきながら、他方四〇〇〇万円が事業団に入金していないことを理由に本訴を提起しているとして国の信義則違反等を主張する。たしかに、本訴が四〇〇〇万円が事業団に入金されていないことを前提にした訴えであることは明らかであるし、<証拠略>によれば、別府税務署長は事業団に対し、昭和四九年六月二八日、事業団の昭和四七年度分の法人税の算定について、本件土地の売買益として四〇〇〇万円の計上もれがあり、結局仲介手数料八〇〇万円を差引いた三二〇〇万円について申告脱漏があつたとして、その旨の収入の修正確定申告をさせたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかしながら、前記二で認定したとおり、事業団は嵯峨建設に対し、本件土地を三億七〇〇〇万円で売却したにもかかわらず、亡徳丸及び森において、事業団と嵯峨建設の間に光輪を介在させ、四〇〇〇万円を浮かせて自己の自由にできる金を捻出しようと企てたもので、実体上、昭和四七年六月四日ころ、事業団と嵯峨建設の間に本件土地の売買契約が成立したと認められ、また前記二に判示の本件売買契約代金の決済された時期並びに<証拠略>によれば、同年七月ころには、本件売買に伴う嵯峨建設に対する本件土地の引渡しもなされていると認められるから、事業団の本件売買契約に基づく税法上の益金の計上の時期は、租税法上の実現主義の原則に従つて、右益金が現実に事業団に入つた時期ではなく、遅くとも本件売買に基づく本件土地の引渡し時期、すなわち昭和四七年七月ころと解するべきであり、別府税務署長も右と同様の見解により事業団に対し前記修正申告をさせたものと認められ、右措置はもとより正当というべきである。

そして、右事実によれば、国(別府税務署長)の右措置は四〇〇〇万円の売買益金が現実に事業団に入金されたことを前提にして事業団に対し修正申告をさせたものではないというべきであるから、国において前後矛盾する主張をなしていると解する余地はなく、したがつて、被告の本件抗弁も理由がない。

四  以上の事実によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川本隆 山下郁夫 小久保孝雄)

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